2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

知恩寺① 永禄九年(1566)九月二十九日。 暗くなって藤川の知恩寺に辿り着いた一行。 お春の笑顔が提灯の明かりに浮かびホッとしたお徳。 「お市さまお春さんが居ますよ」と駕籠に声をかけめと、「ほんとよかった」と市姫の声が弾んだ。 吾助の背から下ろさ…

庫裏① 永禄九年(1566)九月三十日。明六つ半。 お目覚めですかお市さまと襖越しに声がかかり 「きのうの天気が嘘みたいにいい天気ですよ」 と襖を開けながらお徳が言った。 目は覚めていたがまだ寝床の中の市姫。 「お春が居て安心しました。死にそうな目に…

極楽寺① 永禄九年 (1566) 九月三十日 昼前 極楽寺の大きな山門を潜った使者の三人。 正面に見える本堂の右手に建つ庫裏から、にこやかに現われたた小太りの男が佐内を見てちょっと驚いた顔をした。 「先乗りの明智光秀」と名乗った男に案内されて書院に入る…

庫裏➁ 永禄九年(1566)九月三十日。昼四つ 頬かむり姿の長身の男が忍び足で市姫がいる座敷の前まで来た。 大胆にも男は 中の気配をうかがいちょつと襖を開けそっと座敷を覗いた。 ほほが緩んだ男 昼寝から覚めしばしまどろんでいる市姫の素顔が可愛い。 口…

庫裏③ 永禄九年(1566)九月三十日。昼四つ半過ぎ。 時を忘れ拝殿で忙しなく動くお徳。 お徳の姿に見とれていたら横目でにらまれた小六。 慌てて境内に目を移した小六。 早朝に大野木から運ばれてきた神輿に取り付き、職人たちに指図している源吉が目に入っ…

輿① 永禄九年(1566)九月三十日夕方7つ 覆った雷雲は一瞬で去りお神輿はなんとか輿に変身した。 明け六つの暗い中を大野木から運ばれてきた神輿。 珍しい構造なので何とかなると思っていた源吉。 だが、朝日が当たると半ば腐った神輿の現実が老いて日々腐っ…

白川神社① 永禄九年(1566)九月三十日 暮6つ 白川神社は知恩寺の直ぐ傍に在る。 広い境内のそこかしこにははかがり火が明々と焚かれていた。 鳥居を潜った右手に小六組の男衆がたむろする社務所に灯りが点り、赤く色づいた紅葉が石畳沿いに並び鮮やかにかが…

庫裏④ 永禄九年 (1566) 暮六つ半。 「男の方はうらやましい、幾つになっても簡単ですもの少年にもどるの。それに比べ女が少女にもどるのは……下手をすると化け物になってしまいますもの」 とお徳が言った。 黄銅色の乗馬袴に藤色の小袖、萌黄色の陣羽織を着て…

姉川① 永禄九年(1566)十月一日5つ半 藤川を発った花嫁行列。 何処までも付いてくるような伊吹山を右手に黙々と歩く一行。 越える人にとって此岸から彼岸に渡るような気がする姉川まで道半ば、光秀が仕立てたお休み茶屋六ぺえで休憩。 「座っているのは大変…

極楽寺① 永禄九年 (1566) 昼四つ半。 引き続き天気は上々。 小六組が仕立てた船で姉川を渡り極楽寺に入った。 本来ならここで一泊して二日がかりの予定だったのだ。 それを、小便が近いのを忘れた訳ではないが何かに急かされ一日で行くと報せてしまった治重…

近江路① 永禄九年(1566)十月一日昼九つ半 花嫁行列は田屋孫右衛門の先導で小谷を目指し出発した。 やがて舟橋が架かる草野川に差し掛かった。 揺れる舟橋に恐れをなしお徳の手に縋って渡った市姫。 わたり終わった市姫が「少し歩きたい」とお香に手をあず…

近江路② 永禄九年(1566)十月一日.夕七つ 市姫の長い昼寝が覚め再び出発した行列の最後尾列外。 けしかけたようになってしまった立会い騒ぎに気分が晴れないお春。 小六が用意した駕籠を下りやれやれと伸びをして歩き始めたお春に、腹に一物ありげな光秀が…

近江路③ 永禄九年 (1566) 夕七つ半。 暮れ初め落ちかけた夕陽が高嶺にそびえる小谷の城を照らしている。 若き日造るのに苦労した城。 亮政との思い出がいっぱいの櫓を馬上から感慨深げに眺めている孫右衛門。 「立派なお城!」 轡を並べたお徳が櫓を見上げて…

小谷① 永禄九年(1566)十月二日。 三日続きの秋晴れ。 高い松の梢をさやがす風が運んでくる薫りも市蝶の肌を撫ぜる気持ちのいい冷やっこさも尾張とはあきらかに違っていた。 並んだお膳の朝げの匂いも初めてで嫁いだ実感がわき夫婦になった実感がわきさりげ…

小谷② 永禄九年 (1566) 十月二日。昼八半。 きのうしそこなった日課のお昼寝。 まるで取り返さんばかりに昨夜の寝所で眠り続ける花嫁。 何時までも起きて来ない新妻が心配になり様子を見にきた長政。 長政が来たことをお香に告げられ仕方なく起きた市蝶。 洗…

密勅① 三年前の永禄六年。(1563) 織田弾正忠信長の妹との結婚話。 ましく決断を下しかねていた浅井の仲冬。 突然、風に乗って単騎小谷に姿を現した信長。 驚く浅井の若い当主とこの櫓のこの位置から琵琶湖を望んでいたのだった。 「琵琶湖は大きい、新九郎殿…