2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

黄金の免罪符 「享禄五年 (1532) から天正十年 (1582) までの筋書」 木曽川① 木曽川は上流から下流に下流から上流に絶え間なく流れる水で遠い対岸まで埋め尽くされ、辿り着いた旅人に渡る気を起こさせないような威圧感がある。 天文十年(1541)春二月。 堤…

伊勢長嶋⓪ 天文十年(1541)正月。 呼ばれて新年の挨拶かたがた兄貴の居室に出向いたら、「お小夜だ」 と言ってかたわらに控える若い娘を示した。 「吉法師の遊び相手は桜の咲くまで、ご苦労だった。桜が咲いたらこのお小夜と妻夫になって長島に住むように」…

阿弥陀如来① 天文十九年(1549)夏四月末。 内藤冶重郎がお小夜の笑顔に見送られ一人で川を渡ってから一ヶ月。 九年ぶりに会った吉法師、 いや元服した三郎信長のうつけ者と噂される格好。 特に冶重郎の目を引いたのが天を突く異形の茶筅髷。 ぼろほろの着物…

年表 享禄五年(1532)五月*織田信秀と長井利政(斉藤道三)が揃って堺に行く。 七月*享禄五年禄から天文に改元される。 天文元年(1532)八月*法華宗徒等/山科本願寺を焼き撃つ。 天文二年(1533)朝倉義景誕生(孫次郎)四代目考景の嫡子。 天文三年(1534…

南蛮貿易船 ① 天文十年(1541)より九年前の享禄五年(1532)夏五月。 敵味方無用の自治都市堺。 南蛮貿易で賑わいはじめた堺の商人納屋宗次の屋敷に、揃って訪れたのが美濃の長井規秀(斉藤利政)と尾張の織田信秀。 敵対しながら惹かれあう二人。 歳は親子…

近親相姦① 天文十八年(1548)春一月。 尾張の北西富田。 領内川とも境川とも呼ばれる木曽川支流の右岸に立つ真宗聖徳寺。 その数ある塔頭のひとつの一室。 折に触れ飲み交わす二人の男が向かい合っていた 一人は織田弾正忠家の次席家老平手中務政秀。 もう…

近親相姦➁ 天文二十年(1551)春二月。 美濃の雪をうっすらと残した輿から降りた花嫁。 衣を外し、控える織田家の出迎えに軽く会釈した花嫁。 すっと空を見上げた十四歳の花嫁が、 「いいお天気!尾張も美濃も空の色はかわりないのね」 と真っ白な喉頸露わに…

勝幡城① 天文二十一年(1552)冬十一月。 かつて禁断の交わりがあったあのおぞましい屋敷で近親の交わりが!今。 性にはあくまで峻厳な政秀。 酒にだらしがないように性にもだらしがなければよかったと嘆きながら居城である志賀城にこもり、自分の所為でこん…

釣瓶① 天文二十二年(1553)夏六月。 暑い夏の日の信長。当年二十歳。 聖徳寺から帰る途中、喉が渇いて勝幡城に立ち寄った信長。 裏門からはいり裏庭の井戸に行くと、釣瓶を手繰っていた少女がいた。 少女に水を所望すると、「水呑をおもちしますから」と言…

一夜城 ① 永禄九年(1566)秋八月十六日。 墨俣の砦に水を滴らせた馬二頭。 先頭の白馬が小六を認めピシッと止まった。 アッ於市御前だ! 於市御前に違いない! 初めて見るがすぐ分かった小六。 「織田弾正忠殿はいずれに、妹市蝶ただいま参上」 芝居がかっ…

清洲城① 永禄九年(1566)九月十三日。 二年前、三郎信長が小牧城に移ったので清洲城に入った市蝶。 信長の寝室をそのまま使っている市蝶の寝室は、開けられた蔀から差し込んだ十三夜の月明かりで、文が読めるほど明るかった。 いつもではないけど、どちらか…

関が原① ねちょつと素肌に絡みつく白い闇をやみくもに切り裂き浮かび上がりながら、此処が大垣城できのう聖徳寺から着いたのでしたと市蝶が思い到ったのは、挨拶に顔を出した氏家直元の(なるほど)と云う顔と、(大垣に泊まって大丈夫か)と言いたそうな治…

間道① 永禄九年 (1566) 九月二十九日 藤川の里は朝から晴天だった。 木下秀吉に手を取られ(お市さまのおぼしめしにかなうよう骨を折ってくれ)と頼まれたのが八月の末。 お市様はともかくあの女の為ならと思った小六が、小六組の郎等を引き連れ、関ケ原を越…