2023-01-15から1日間の記事一覧

聖徳寺① 永禄十一年(1568)秋八月。 尾張の北西木曽川の支流領内川沿い富田に寺内町が広がり、橋で結んだ対岸に伽藍と塔頭が立ち並ぶ広大な真宗聖徳寺。 その聖徳寺の南の外れ、石垣で囲まれた二棟の建物。 その二棟の建物を隔てる渡り廊下の下を流れる疏水…

墨俣① 永禄十一年(1568)秋九月に入りほどないころ。 女は(益田内膳)を訪ねさ迷っていた。 記憶は途絶え自分が誰で何処から来て何処に行こうとしているのかも分からなかったがなぜか懐にあったまだ日に焼けていない一枚の白い懐紙に記されていた名前(益…

長良川① 永禄十一年(1568)秋九月に入ってしばらくしたころ。 三郎信長が京に発つと決心したので川内に行くことにした内藤冶重郎が頭の中に持ち帰った川内の図を信長に渡したのは万一のことを思ったからだった。 艪を漕ぎながら輪中と島を巡り、その日のう…

川内① 永禄十一年(1568)秋九月二十六日、朝。 源次郎の船で長良川を下る治重郎。 去年、稲葉山で意地を通した若い斉藤龍興に道を開け、川内に落ちるのを信長と見送った長良川は墨俣辺りで木曽川と合流し、川内に掛かる手前で再び分流する。船は木曽川の速…

川内② 再び九月二十六日。夕刻。 こまった筋書きになった小六とお徳とのことを世間話のように話しているうちに窺っていた風が玄関から奥の縁に通り抜け、日が落ちる前に華子が帰ってきた。 「ただいま」と言って玄関に入った華子が、「お帰り」と言って迎え…